オスと接触していないメスのサメが、子を産むことはあるのでしょうか。シュモクザメの仲間、ウチワシュモクザメでは、母親だけの遺伝情報で子が生まれる「単為生殖」が確認されています。決め手は飼育記録だけでなく、生まれた子のDNA解析でした。ただし、この事例から、すべてのシュモクザメが同じように繁殖できるとはいえません。
卵が受精せずに発生する仕組み
単為生殖とは、精子による受精を経ずに、卵から新しい個体が発生することです。このサメの事例で考えられているのは、「オートミクシス」と呼ばれる形式です。
卵ができる過程では、染色体の数を半分にする分裂が起こります。その際に生じる小さな細胞が「極体」です。通常は消えていく極体と、受精しなかった卵が融合すると、染色体を2組持つ2倍体の核ができ、そこから発生が進むと考えられています。
ここで区別したいのは、DNAから分かることと、細胞の中で起きた出来事です。研究の遺伝学的な結果はオートミクシスを支持していますが、この出産で卵と極体が融合する瞬間を直接観察したわけではありません。仕組みの説明は、得られた証拠に合うものとして理解する必要があります。[1]
2001年の出産を、2007年にDNAで検証
出産が起きたのは2001年12月。米国ネブラスカ州オマハのヘンリー・ドアリー動物園水族館で、3年以上オスと接触していなかったメスのウチワシュモクザメが子を産みました。子ザメはその後、同じ水槽のエイに捕食され、生き延びませんでした。
この出産を調べたChapmanらは、2007年、英国王立協会の査読誌『Biology Letters』に研究を発表しました。子のDNAを解析したところ、調べた遺伝的な指標には父親由来の情報が見つからず、母親由来の情報だけで説明できました。研究チームは単為生殖と結論づけ、サメやエイを含む軟骨魚類で初めて科学的に証明された例とされています。[1]
「父親由来の遺伝情報がない」という説明は、DNA解析の結果に基づくものです。全DNAの一文字ずつを確認した、という意味ではありません。また、出産が起きた年と、研究が公表された年も異なります。観察された出来事を遺伝学的に検証した点に、この研究の大切さがあります。
母親のクローン? 子は必ずメス?
母親の遺伝情報だけを受け継ぐと聞くと、子は母親の完全なコピーに思えるかもしれません。しかし、オートミクシスでは、卵ができる過程を経て遺伝子の組み合わせが変わるため、母親と完全に同一のクローンにはなりません。「遺伝情報の由来が母親だけ」と「遺伝的に母親と同じ」は、別の話です。
子の性別も、種ごとの性決定の仕組みに関係します。メスがXX、オスがXYという仕組みでは、母親からオス由来のY染色体を受け継がないため、単為生殖の子はメスになると考えられます。サメ・エイの多くでメスが生まれるとされる説明も、この考え方に基づきます。ただし、すべての種に一律に当てはめるのは慎重であるべきです。[1]
野生での「最終手段」なのか
単為生殖は、オスに出会えないメスにとって、繁殖の「最終手段」になる可能性があると考えられています。乱獲で個体数が減ったり、生息地が分断されたりすれば、出会いの機会も限られるかもしれません。
ただし、これは野生での役割についての仮説です。今回の飼育下の事例は、そうした環境の変化が単為生殖を引き起こしたと直接示すものではありません。「オスがいなくなると必ず切り替わる」「単為生殖があるから個体数は回復する」とまではいえないのです。[1]
今回の事例の基本情報
| 種類 | ウチワシュモクザメ(Sphyrna tiburo) |
|---|---|
| 出産の時期・場所 | 2001年12月、米国オマハのヘンリー・ドアリー動物園水族館 |
| オスとの接触 | 出産まで3年以上なし |
| 研究の公表 | 2007年、Chapmanら『Biology Letters』 |
| 確認の根拠 | 子のDNA解析で母親由来の遺伝情報のみを確認 |
まとめ
ウチワシュモクザメの単為生殖は、オスなしの出産をDNAで確かめた事例です。一方、卵の中で進む詳しい過程や、野生でどのような役割を持つかには、推定や未解明の部分が残ります。確認された出産と、その先にある仮説を分けて読むことで、この繁殖の特徴がより正確に見えてきます。
参考資料
- Chapman, D. D., et al. (2007). Virgin birth in a hammerhead shark. Biology Letters, 3(4), 425–427.

