秋のモミジの下で、くるくる回る小さな「種」を見かけます。あれは種子を包む果実に翼がついた翼果(よくか)です。回転しながら空気から力を受け、落下を遅らせる仕組みが研究で確かめられています。自力で上昇するのではなく、落ちながら空中にいる時間を延ばしているのです。
二つに分かれた果実が、回転して落ちる
カエデ属の果実は、成熟すると二つの「分果」に分かれます。それぞれに翼と一つの種子があり、分かれた一片ずつが散布されます。「二枚の種」というより、種子入りの翼つき果実が一対になっている姿です。[1]
種子を含む重い部分と薄い翼の配置により、落下中の空気の流れを受けて回転する「自動回転」が起こります。動力はなく、落下に伴って失われる位置エネルギーを使います。ヘリコプターにたとえるなら、エンジンで上昇する飛行より、降下する際に空気の流れでローターが回る状態に近いといえます。
回る翼の前縁、つまり進行方向側の縁の上には「前縁渦」が生じます。これは翼端だけの渦ではなく、翼の上の圧力を下げ、重力に逆らう力を生むのに役立ちます。落下が遅ければ横風に運ばれる時間も長くなりますが、到達距離は風や放たれる高さにも左右されます。[2][3]
模型と本物の翼果で調べた空気の渦
2009年、Lentinkらはイロハモミジなどの翼果をもとにした模型を油の中で動かし、周囲の流れを三次元で測定しました。空中の実物に対応する流れを再現した実験です。
さらに、別種のセイヨウカジカエデの実物を縦型風洞で回転させ、32個体で流れを可視化し、前縁渦を確認しました。[2]
「揚力が2倍」「必ず遠くへ飛ぶ」はどこまで正確?
研究で示された平均約2倍という比較は、翼にかかる重量や落下速度を考慮した空力性能の指標についてのものです。同じイロハモミジの翼果を回した場合と止めた場合で、揚力が常に2倍になるという意味ではありません。[2]
また、渦の存在を確かめる実験と、自然の森でどこまで飛び、芽生えるかを追う調査は別です。滞空時間の長さは散布に有利と考えられますが、個々の翼果が必ず遠くへ届くことや、発芽に成功することまでは保証しません。
モミジとカエデの違い、紅葉の新しい知見
「モミジ」と「カエデ」は別々の属ではなく、どちらもカエデ属の木を指す呼び名です。葉の切れ込みだけで二つの分類群に分けることはできません。現在の分類ではムクロジ科に含まれます。[1][4]
赤い紅葉には、葉で合成される色素アントシアニンが関わります。ここで注意したいのが、「葉の付け根に離層ができ、糖が閉じ込められるから赤くなる」という説明です。離層は、葉を枝から切り離すための組織です。
森林総合研究所が2026年に紹介したハウチワカエデの調査では、離層の発達より前にアントシアニンの合成が始まり、落葉直前まで養分を運ぶ師管の機能も保たれていました。紅葉と葉が落ちる準備は、単純な一続きの反応とはいえないのです。ただし、これはハウチワカエデの結果であり、イロハモミジでも同じ経過になると直接示したものではありません。[5]
イロハモミジの基本情報
| 学名 | Acer palmatum |
|---|---|
| 分類 | ムクロジ科カエデ属の落葉樹 |
| 国内の分布 | 福島県以西の本州、四国、九州。主に太平洋側の低山 |
| 葉 | 手のひら状に5~9裂し、縁に鋸歯がある |
| 花 | 4~5月ごろ、葉が開いたあとに咲く |
まとめ:葉と翼果を見比べてみよう
モミジの翼果は、回転と空気の渦を利用してゆっくり落ちます。膨らんだ種子の部分と薄い翼を見比べてみてください。拾える場所では、同じ高さから離す様子を動画で撮ると、回転の始まりを追いやすくなります。
参考資料
- 坪田博美・内田慎治・中原-坪田美保(2021)「宮島のモミジ」『厳島研究』17、1–14頁。
- Lentink, D. et al.(2009)Leading-Edge Vortices Elevate Lift of Autorotating Plant Seeds. Science 324, 1438–1440. DOI: 10.1126/science.1174196.
- Caltech(2009)カエデの翼果の回転と前縁渦についての研究紹介。
- Royal Botanic Gardens, Kew:Plants of the World Online — Acer palmatum。
- 森林総合研究所(2026年4月13日)「秋の紅葉は、落葉させる『離層』が発達する前から始まっている」。
- 岡山理科大学・波田善夫:植物雑学事典「イロハモミジ」。

