
カエデの魅力は秋の赤色だけではありません。春から夏の葉は光合成を担い、秋には養分を回収しながら色を変え、翼のある果実は回転して種子の滞空時間を延ばします。紅葉と種子散布は別の現象ですが、どちらも季節を生き抜き、次世代を残す生活史の一部です。
「緑が抜けると赤が現れる」という説明は半分だけ正解です。黄色系はクロロフィルの分解で目立つようになるカロテノイドが中心ですが、赤系のアントシアニンは秋に新たに合成される場合があります。その役割には複数の仮説があり、全てが決着したわけではありません。
紅葉までに葉で起きること
日が短くなり気温が下がる季節になると、落葉樹は葉と枝の境界に離層を形成し始めます。葉へ運ばれる物質が変化し、クロロフィルが分解され、窒素などの成分は可能な範囲で枝や幹へ回収されます。緑色が弱まると、もともと葉にある黄色~橙色のカロテノイドが見えやすくなります。
赤~紫色のアントシアニンは、葉に残る糖、光、低温などの影響を受けて合成されます。米国森林局が紹介するサトウカエデの枝冷却実験では、枝を冷やすと葉の糖とアントシアニン濃度が増加しました。ただし、色は樹種・個体の遺伝的性質、栄養、水分、日照、昼夜の温度などにも左右されます。「寒ければ必ず真っ赤になる」という一条件だけの現象ではありません。
赤い色は何のため?
アントシアニンが強い光から老化中の葉を守り、養分回収を助けるという光防御仮説や、植食性昆虫への信号とする仮説などがあります。赤色と早い老化の関係を27本のアメリカハナノキで調べた研究では、アントシアニンが多い個体ほど老化が早く、単純に生育期間を延ばすという説明とは一致しませんでした。色素の機能を一つの「本当の理由」に絞るのは早計です。
プロペラのような翼果
カエデの果実は2個が対になった翼果で、成熟すると分かれて落下します。片翼の翼果は重心と翼面がずれているため、落ちながら安定した自動回転に入り、周囲に渦を作って落下速度を抑えます。その分だけ風に運ばれる時間が長くなり、親木から離れる可能性が高まります。
Guries と Nordheimは7種のカエデで、回転に入るまでの落下距離と回転後の終端速度を測定し、翼果の形態と散布可能性を比較しました。後年のイロハモミジの実験でも、初期姿勢が違っても一定距離内に安定回転へ入ることが示されています。ただし実際の散布距離は、放出高度、風、周囲の植生、果実の形によって変わります。
カエデとモミジの違い
植物分類上の「モミジ」という独立した属があるわけではなく、イロハモミジなどもカエデ属です。日本語では葉の切れ込みが深い種類や紅葉の美しいものを慣用的にモミジと呼ぶことがあります。園芸名と分類名を混同しないことが大切です。
色づいた後、なぜ落葉するのか
離層が完成すると葉は枝から切り離されます。冬に光合成の利益が小さくなる地域では、薄い葉を維持する水分・栄養上の費用や、凍結・積雪による損傷を避ける利点があります。落葉前に養分を回収しても全てを取り戻せるわけではなく、紅葉は回収と葉の老化が同時進行する移行期の見た目です。
基本情報
| 分類 | ムクロジ科・カエデ属(Acer) |
|---|---|
| 種数 | 多数の種・園芸品種があり、性質は一様ではない |
| 葉 | 多くは対生。形や切れ込みは種により異なる |
| 果実 | 翼をもつ翼果。通常2個が対になる |
| 秋の主な色素 | カロテノイド、アントシアニンなど |
まとめ
カエデの秋色は、葉緑素が減るだけでなく、既存色素が見える過程と赤い色素が作られる過程の組み合わせです。落葉後には翼果が自動回転し、風を利用して種子を運びます。鮮やかな見た目の裏には、養分回収と散布という異なる仕組みがあります。
参考資料
- Raymond P. Guries, Erik V. Nordheim (1984), “Flight Characteristics and Dispersal Potential of Maple Samaras,” Forest Science 30(2):434–440. DOI
- Eui-Jae Lee, Sang Joon Lee (2016), “Effect of initial attitude on autorotation flight of maple samaras (Acer palmatum),” Journal of Mechanical Science and Technology 30:741–747.
- United States Forest Service, “Why Leaves Change Color.” PDF

