
池の上にぶら下がる白い泡の塊は、モリアオガエルの卵を包む「泡巣」です。卵は樹上で育ち、孵化したオタマジャクシは泡巣から下の水へ落ちて生活を始めます。この仕組みには、卵を乾燥から守るだけでなく、巣内の急な温度上昇を和らげる働きもあることが研究で確かめられています。
木の上で泡巣を作るまで
モリアオガエルは日本固有のアオガエル科のカエルで、ふだんは森林の樹上で暮らします。繁殖期になると、池や沼、水田などの止水域へ集まります。地域や標高で時期は変わりますが、千葉県の資料ではおおむね5月から7月初旬、多摩森林科学園では5~6月に繁殖行動が観察されています。
産卵時にはメスとオスが枝葉の上で抱接し、メスが出す粘液を後脚でかき混ぜて泡立てます。その泡の中へ産卵と放精が行われ、やがて表面が硬くなります。1つの泡巣に含まれる卵数には幅があり、公的資料では約300~800個、泡巣の直径は10~15cmほどとされています。複数のオスが1匹のメスを囲むこともあります。
孵化した幼生は水中生活へ移る
泡巣は、ふつう水面に張り出した枝や葉に作られます。卵は泡の中で発生し、孵化した幼生は泡巣の外へ出て、雨水などとともに下の池へ落下します。そこで初めて、一般的なオタマジャクシと同じ水中生活へ移ります。卵から成体までずっと木の上で育つわけではありません。
森林内の小池で148個の泡巣を調べた研究では、産卵位置の高さは水面から106~950cm、平均434cmでした。ただし、重要だと推測されたのは特定の樹種や単純な高さではなく、樹冠が水面を覆い、幼生が水へ落ちやすい配置です。モリアオガエルの繁殖には、池だけでなく、その上へ枝葉を伸ばす森林が一体となった環境が必要だと考えられます。
泡巣で確かめられた二つの働き
2000~2002年に行われた野外観察と室内実験では、外気温が25℃を超えると、泡巣の中心が外気より最大6℃低く保たれました。また、約29~30℃の高温条件では孵化率が大きく下がったため、研究者は泡による断熱・温度緩和が卵の発生に役立つと考えています。
同じ研究では、孵化直後の幼生に泡巣を与えると、餌なしの水だけで育てた場合より成長し、乾燥重量が孵化時の2~5倍になりました。泡巣は保護容器であるだけでなく、幼生が水へ移る前後に利用できる栄養源にもなり得ます。ただし、樹上産卵が進化した理由のすべてをこの実験だけで説明できるわけではありません。
よく似たシュレーゲルアオガエルとの違い
緑色の体と泡状の卵塊から、シュレーゲルアオガエルと混同されることがあります。大きな違いは産卵場所です。モリアオガエルは水面上の枝葉に泡巣を作るのが代表的ですが、シュレーゲルアオガエルは水田のあぜなど、水辺の土中に泡状の卵塊を作ります。体色だけで決めつけず、繁殖場所や大きさも合わせて見る必要があります。
モリアオガエルの基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | 両生綱・無尾目・アオガエル科 |
| 学名 | Zhangixalus arboreus(旧属名を用いた Rhacophorus arboreus の表記も多い) |
| 分布 | 日本固有種。本州・四国・九州の山地など |
| 成体の大きさ | オス42~60mm、メス60~90mm(千葉県資料) |
| 主な繁殖期 | 春から夏。時期は地域・標高により異なる |
| 卵 | 水面上の枝葉などに泡巣を作る |
| 幼生 | 孵化後に水へ落ち、水中で成長する |
まとめ
モリアオガエルは、森林の枝葉と水辺をつなぐように泡巣を作ります。泡は卵の乾燥を抑えるだけでなく、高温を和らげ、孵化直後の幼生の栄養源にもなることが実験で示されています。そして幼生が育つには、泡巣の真下に水域が必要です。白い泡巣は、樹上生活と水中生活をつなぐ繁殖装置であると同時に、周囲に森林と水辺がそろっていることを物語っています。

