シーラカンスは、胸びれと腹びれを四足動物の脚のように交互に動かす魚です。ただし、「歩くように泳ぐ」と「海底にひれをついて歩く」は別のこと。自然の海での観察では、ひれで姿勢や進む方向を調整しながら、海流に乗ってゆっくり移動する姿が確認されています。ここでは西インド洋にすむインドシーラカンス(Latimeria chalumnae)を中心に、その動きと研究から見えてきた暮らしを紹介します。
脚のようなひれは、どう働く?
胸びれは体の前方、腹びれは後方に左右一対ずつあります。シーラカンスでは、その付け根が骨と筋肉を備えた肉厚の構造になっています。こうした肉質のひれを持つ仲間が「肉鰭類」です。
泳ぐときには、斜め向かいの胸びれと腹びれが連動し、左右を交互に動かします。この組み合わせが四足動物の歩行を思わせますが、水中で体を支えるのは浮力です。ひれは体の傾きや向きを整え、推進にも使われます。[1][2]
潜水艇で確かめた「歩かない」泳ぎ
1987年、フリッケらは研究用潜水艇Geoから、水深117〜198mにいた6個体の動きを観察し、論文を発表しました。それ以前には、対になったひれで岩場の海底をはう可能性も考えられていました。
観察されたのは、海流の中を低速で漂い、ひれで移動を調整する姿でした。急発進には尾びれを使い、胸びれと腹びれで海底を歩く行動は見られませんでした。6個体の観察で全状況を言い切れませんが、「海底を歩く魚」という説明はこの結果に合いません。[1]
寿命は約100年?うろこから探る成長
動画では紹介しきれない特徴が、成長の遅さです。2021年の研究では27個体の標本を調べ、偏光顕微鏡でうろこの細かな成長線を読み取りました。従来見落とされていた線を年ごとの記録と解釈すると、寿命は約100年に達する可能性があり、成熟にも数十年かかると推定されました。
子を体内で育てる期間も約5年と見積もられています。ただし、同じ魚を100年間追跡したり、妊娠から出産まで5年間観察したりした結果ではありません。成長線の周期性や成長モデルに基づく推定です。[3]
「生きた化石」は進化していないという意味?
1938年、南アフリカで漁獲された奇妙な魚に博物館員マージョリー・コーテネイ・ラティマーが注目し、魚類学者J・L・B・スミスの同定につながりました。化石で知られ、絶滅したと考えられていた系統が生きていたため、大きな発見になったのです。[2]
現生のシーラカンスは、人間や陸上動物の直接の祖先ではありません。2013年のゲノム比較研究では、四肢動物により近い現生魚は肺魚だと示されました。調べたタンパク質の進化速度が比較的遅いことも、進化の停止を意味しません。「生きた化石」という呼び名も、同じ種が太古から無変化で続いたという意味ではありません。[4]
シーラカンスの基本情報
| 学名・英名 | Latimeria chalumnae/Coelacanth(West Indian Ocean coelacanth) |
|---|---|
| 分類 | 肉鰭綱・シーラカンス目・ラティメリア科 |
| 現生の仲間 | 2種。もう1種はインドネシアシーラカンス(L. menadoensis) |
| 分布・環境 | 西インド洋のアフリカ東岸やコモロ諸島周辺など。深い海の岩場や洞窟を利用 |
| 食性・活動 | 主に夜間に活動する肉食魚。魚類やイカなどの頭足類を食べる |
| 保全上の脅威 | 漁業による混獲や生息環境の破壊。タンザニアではサメ漁の刺し網による混獲が問題 |
まとめ
シーラカンスのひれは水中での姿勢や移動を支えています。泳ぎ方は直接観察され、長寿はうろこから推定されています。成長や繁殖の遅さは、個体群の回復を考えるうえでも重要です。混獲を減らし、生息場所を守ることにも目を向けたい魚です。[3][5]
参考資料
- Fricke, H. et al.(1987)Locomotion of the coelacanth Latimeria chalumnae in its natural environment. Nature 329, 331–333.
- Natural History Museum:Coelacanths: The fish that ‘outdid’ the Loch Ness Monster.
- Mahé, K., Ernande, B. & Herbin, M.(2021)New scale analyses reveal centenarian African coelacanths. Current Biology 31, 3621–3628.e4.
- Amemiya, C. T. et al.(2013)The African coelacanth genome provides insights into tetrapod evolution. Nature 496, 311–316.
- NOAA Fisheries:African Coelacanth.
