街で見かけるカラスは、人の顔を覚え、道具を扱い、先の出来事に備えることさえあります。ただし「カラスならどの種も同じことができる」わけではありません。研究で確かめられた能力は種ごとに異なり、課題に成功したことと、人間と同じ仕組みで考えたことも同義ではありません。結論を先に言えば、カラス科の賢さは、密度の高い脳と、記憶・問題解決・社会学習など複数の証拠から評価されています。
小さな脳に多くの神経細胞
鳥の脳は哺乳類より小さいため、かつては能力も低いと思われがちでした。しかし2016年の研究では、鳴禽類とオウム類は高密度の神経細胞を持ち、その多くが認知に関わる前脳に集まると報告されました。ワタリガラスでは約10.2グラムの脳の前脳に約12億個の神経細胞があり、約39グラムの脳を持つオマキザルの約11.4億個に匹敵します。
さらに2022年の比較研究では、カラス科の連合領域(mesopallium、nidopallium)の神経細胞数は、調べた非カラス科の鳥のおよそ2倍でした。これは複雑な認知を支える有力な説明ですが、個々の行動との因果関係まで証明したわけではありません。
賢さを確かめた研究
道具を作り、大切に保管する
ニューカレドニアガラスは、植物の茎から先端がかぎ状の道具を作り、穴の中の獲物を取り出します。実験では、手間がかかり採餌効率も高いかぎ付き道具を、単純な棒より好み、使用の合間に足元や穴へ安全に保管する頻度も高くなりました。これは道具の有用性に応じて扱いを変えた証拠です。
水位を上げるが、万能ではない
同じ種を使った「アエソップの寓話課題」では、水入りの管へ石を落として餌の水位を上げました。鳥は砂より水、浮く物より沈む物、中空より中実の物を選びました。一方、管の幅を見分ける課題や、見えない接続を含むU字管では成功しませんでした。研究者は理解を「高度だが不完全」と評価しています。成績が5〜7歳児と似ていても、カラスの知能全体がその年齢の子どもと同じという意味ではありません。
未来への備えと、危険情報の共有
ワタリガラスは、将来箱を開ける道具や報酬と交換するトークンを、使う場面が目の前にないときにも選び、最大17時間後に利用しました。貯食とは別の課題だったため、将来に備える行動が貯食だけの特殊な適応ではない可能性を示します。ただし実験個体数は少なく、「人間と同じ心的時間旅行」を直接証明した研究ではありません。
アメリカガラスでは、捕獲時に研究者が着けた危険なマスクへの警戒が長期間続きました。別の実験では、捕獲されていない個体も仲間の警戒を通してその顔を学び、親を観察した若鳥にも反応が広がりました。顔の長期記憶と社会学習は、別々の個体だけで完結しない知性を示しています。
日本で見られるカラスと、よくある混同
仙台市ではハシボソガラスが道路へクルミを置き、車に割らせてから回収する行動が観察されました。しかし、道具製作はニューカレドニアガラス、顔の研究はアメリカガラス、計画課題はワタリガラスの成果です。ひとつの種の結果を、身近なハシブトガラスを含む全種へそのまま当てはめることはできません。また、鏡像を自分と認識できるかについてはカラス属で結果が割れているため、確立した能力とはいえません。
基本情報
| 分類 | スズメ目カラス科。この記事では主にカラス属を扱う |
|---|---|
| 日本の身近な種 | ハシブトガラス、ハシボソガラス |
| 食性 | 雑食。昆虫、果実、種子、卵、死骸などを食べる |
| 生息環境 | 森林、農地、公園、都市など幅広い |
| 研究上の注意 | 能力・実験結果は対象種と課題を区別して読む |
まとめ
カラス科の知能を支える候補は、前脳、とくに連合領域に多い神経細胞です。行動面でも、道具の製作と保管、物理課題、将来への備え、顔の記憶と社会学習という異なる証拠があります。同時に、難しい課題での失敗や種差も重要です。「何でも理解する鳥」ではなく、環境に応じた複数の認知能力を、実験と野外観察の両方から調べられる鳥だと捉えるのが正確です。
参考資料
- Olkowicz S. et al. (2016) “Birds have primate-like numbers of neurons in the forebrain.” PNAS 113(26):7255–7260
- Ströckens F. et al. (2022) “High associative neuron numbers could drive cognitive performance in corvid species.” Journal of Comparative Neurology 530(10):1588–1605
- Klump B. C., St Clair J. J. H. & Rutz C. (2021) “New Caledonian crows keep ‘valuable’ hooked tools safer than basic non-hooked tools.” eLife 10:e64829
- Jelbert S. A. et al. (2014) “Using the Aesop’s Fable Paradigm to Investigate Causal Understanding of Water Displacement by New Caledonian Crows.” PLOS ONE 9(3):e92895
- Kabadayı C. & Osvath M. (2017) “Ravens parallel great apes in flexible planning for tool-use and bartering.” Science 357(6347):202–204
- Marzluff J. M. et al. (2010) “Lasting recognition of threatening people by wild American crows.” Animal Behaviour 79(3):699–707
- Cornell H. N., Marzluff J. M. & Pecoraro S. (2012) “Social learning spreads knowledge about dangerous humans among American crows.” Proceedings of the Royal Society B 279:499–508
- 仁平義明 (1995)「ハシボソガラスによる自動車を利用したクルミ割り行動」『日本鳥学会誌』44(1):21–35

