真っ暗な部屋の中でも、獲物の位置を正確に言い当てられる生きものがいます。ガラガラヘビです。目からの情報がなくても獲物を仕留められる秘密は、顔の左右にある小さなくぼみ「ピット器官」にあります。ここでは、このセンサーが何を、どこまで感知できるのか、研究で分かってきたことを詳しく紹介します。
ピット器官は「ピンホールカメラ」のような構造をしている
ピット器官は、目と鼻孔の間にある小さな窪みで、奥に薄い膜(感覚膜)が張られています。外側の開口部は小さく、内部が空洞になっているため、光学的にはピンホールカメラに近い構造だとされています。外から入ってくる熱放射(赤外線)が、この開口部を通って感覚膜のどこに当たるかによって、熱源のおおまかな方向が分かる仕組みです。
感覚膜には無数の神経終末が集まっており、周囲よりわずかに温かい物体が発する熱放射を、極めて敏感に検知します。1956年のBullockらの研究では、この受容器が0.003℃という小さな温度変化にも反応することが報告されており、条件によってはさらに高い感度がありうるとも指摘されています。動画では分かりやすさを優先して「0.2度ほど」という、より広く紹介されている数値を採用しましたが、実験条件によって報告される感度には幅があります。
「辛みのセンサー」が「熱のセンサー」に変わった
この感覚を生み出す分子の正体は、2010年のGrachevaらによるNature誌の研究で明らかになりました。ピット器官の神経には「TRPA1」という受容体タンパク質が働いており、これはもともと哺乳類では香辛料の刺激やチクチクした痛みの感知に関わるタンパク質と同じ系統です。ガラガラヘビなどピットを持つ蛇の仲間では、このTRPA1が脊椎動物の中で最も熱に敏感なイオンチャネルへと進化しており、赤外線を捉える主役になっていると報告されています。
「精密なセンサー」だが、映像としては意外と粗い
ピット器官は温度の変化には非常に敏感ですが、「対象の形までくっきり見えている」わけではなさそうです。2022年に発表された行動実験の研究では、ピット器官が捉える熱の像は空間的な解像度が低く、輪郭のはっきりしない、ぼんやりとした温度分布として感じ取られている可能性が指摘されています。極めて高い温度感度と、粗い空間分解能という、一見矛盾するような特性が同居しているのがこのセンサーの実像です。また、ピット器官を冷やすと獲物への反応が高まる、湿度が低いほど検知しやすくなるといった行動実験の報告もあり、単純な「赤外線カメラ」以上に複雑な仕組みで働いていると考えられています。
ガラガラヘビの基本情報
| 分類 | 有鱗目クサリヘビ科、Crotalus属・Sistrurus属(いずれもマムシ亜科の仲間) |
|---|---|
| 種数 | 分類の見解によって幅があり、Crotalus属だけでもおよそ30〜60種、Sistrurus属は3種とされる |
| 生息地 | 南北アメリカ大陸の草原・森林・砂漠など |
| 体長 | 50cmほどの小型種から2mを超える大型種まで |
| 毒 | 主に出血毒。一部の種は神経毒も併せ持つ |
| 尾の音 | 脱皮のたびに積み重なる角質の輪を振動させて音を出す |
まとめ
ガラガラヘビが暗闇でも獲物を正確に襲えるのは、顔のピット器官が極めてわずかな温度差まで感知できるためです。その正体は、もともと刺激やチクチクした痛みを感じ取るタンパク質が、熱を感じる方向へ進化したものでした。ただし、その像は輪郭のはっきりした映像ではなく、ぼんやりとした温度のパターンに近いと考えられています。精密さと粗さが同居する、不思議なセンサーです。
参考資料
- Wikipedia「Rattlesnake」
- Gracheva et al.(2010)Molecular basis of infrared detection by snakes, Nature 464, 1006–1011
- Krochmal & Bakken(2001)Thermal modeling of snake infrared reception: evidence for limited detection range
- Chadwick et al.(2022)Pit viper thermography: the pit organ used by crotaline snakes to detect thermal contrast has poor spatial resolution, Journal of Experimental Biology 225(24)
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真っ暗闇でも獲物がわかる、ガラガラヘビの顔に隠された秘密

