水辺で彫像のように立つハシビロコウ。「動かない鳥」として知られますが、獲物を見つけた瞬間には全身を使って飛びかかります。長い静止と短い強襲は、湿地で魚を捕らえるための一続きの行動です。その大きなくちばしは、狩りだけでなく、仲間との意思疎通にも使われます。
待ち伏せから、一瞬の「コラプス」へ
ハシビロコウはアフリカ中部から東部の湿地にすみ、肺魚やティラピア、ナマズなどを食べます。水辺でじっと待ち、魚が届く位置に来ると、前方へ倒れ込むように体を投げ出して捕らえます。この動作が「コラプス」です。上くちばしの先端にある鋭いかぎ状の部分は、滑りやすい魚をしっかり挟むのに役立ちます。上野動物園の解説でも、静止することで魚に気づかれにくくなると説明されています。
酸素の少ない水域を好んで狩る傾向もあります。肺魚などが呼吸のために水面へ出る機会が増え、捕らえやすくなるためと考えられています。ただし、すべての魚が同じ呼吸行動をとるわけではありません。また、この説明と、水中の酸素量を操作して狩りの成功率を確かめる実験とは区別する必要があります。サンディエゴ動物園の解説では、倒れ込む捕り方は深い水では効率が悪く、主に浅い場所を使うとしています。
野外観察で分かった「待つ時間」
ザンビアのバングウェウル湿地で行われたMullersとAmarの採餌行動研究では、観察時間の85%が静止や羽づくろいなどの低活動の行動でした。これは「85%の時間、完全に動かない」という意味ではありません。
計170.1時間の観察で、捕獲した獲物の71%はナマズ属(Clarias)の魚でした。捕獲頻度は平均8.3時間に1匹。ただし、これは観察を通じた平均値で、毎回8時間待つという決まりではなく、一日全体の食事回数を示す数字でもありません。一つの湿地での結果を、分布域全体の食性や成功率にそのまま当てはめることはできません。
くちばしの音は、いつも挨拶とは限らない
上下のくちばしを素早く打ち合わせる音が「クラッタリング」です。サンディエゴ動物園は、相手への求愛や侵入者を追い払う場面での使用を紹介しています。一方、伊豆シャボテン動物公園の2019年の飼育個体の紹介には、親しい飼育員へおじぎをしながらくちばしを鳴らす姿が記されています。音だけで「喜んでいる」と決めず、相手や姿勢も合わせて見ることが大切です。
また、「まったく鳴けない鳥」とするのも正確ではありません。サンディエゴ動物園は、巣で成鳥が声を出すことや、ひなが餌を求める際に音声を発することも紹介しています。くちばしの音が目立つ鳥ですが、音声によるやりとりもあります。
目の色や、まばたきにも注目
伊豆シャボテン動物公園の資料によると、目の色は若鳥の黄色から成鳥の青色へと変化します。上野動物園が紹介するもう一つの観察点は、白く半透明の「瞬膜」です。捕獲時にはこの膜を閉じて目を守ります。普通のまぶたによるまばたきもするため、静止しているように見えるときも、目元には小さな動きがあります。
ハシビロコウの基本情報
| 分類 | ペリカン目ハシビロコウ科ハシビロコウ属。科・属とも現生種は本種のみ |
|---|---|
| 分布・環境 | ウガンダ、南スーダンなど、アフリカ中部〜東部の湿地・沼地 |
| 大きさ | 全長約110〜140cm、翼を広げると約230〜260cm |
| 主な食物 | 魚類。カエルや水生のヘビなども食べる |
| 保全状況 | IUCNレッドリスト:VU(危急種)。成熟個体は推定3,300〜5,300羽 |
待ち伏せできる湿地を守る
個体数は推定値で、2026年の一斉調査による実数ではありません。湿地の農地転用や違法な捕獲などが脅威です。保全団体African Parksは、バングウェウルで地元の漁業者を巣の見守り役として雇用しています。2024年には記録した21巣のうち16巣を保護事業で見守ったと報告しています。
ハシビロコウの静止は、魚の動きに合わせた狩りの一場面です。くちばしの音や目元の動きまで観察すると、「動かない」という印象の奥にある暮らしが見えてきます。
参考資料
- Mullers & Amar(2015):バングウェウル湿地での採餌行動研究
- San Diego Zoo:Shoebill
- 上野動物園:目指せハシビロコウ博士!
- 伊豆シャボテン動物公園:ビル来園38周年の報道資料(2019年、PDF)
- African Parks:Bangweulu Biodiversity Conservation
動画で見るハシビロコウ
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