クジャクの求愛といえば、大きく広げた華やかな羽が有名です。しかし、インドクジャクのオスは声でもメスに働きかけます。なかには、交尾を試みていないのに、それを連想させる声を出すオスもいます。鳴き声の研究と、動画では触れなかった飾り羽の振動から、音と見た目を組み合わせた求愛を見ていきましょう。
求愛の声は、音の数にも注目
繁殖期に響く「ケオーン」と聞こえる声は、研究では「keow」と表記されます。メスがまだ求愛の場にいないときにも発せられ、相手への合図として研究されてきました。注目されるのは声の大きさだけでなく、ひと続きの鳴き声に含まれる音、つまり「ノート」の数です。
1996年のヤスミンとヤヒヤの研究では、ノート数と交尾成功との相関が報告されました。2013年の鳴き声の研究もこの知見を紹介し、声がオスの質や年齢を知る手がかりとなる可能性を挙げています。ただし、相関だけでは「音を増やせば交尾が成功する」とは言えません。ノート数をメスがどう評価しているかは、別に検証する必要があります。[1・2]
交尾をしていないのに出す「フート」
もう一つの声が「フート(hoot)」です。これは厳密には、交尾直後だけの声ではなく、オスがメスへ駆け寄り、乗りかかって交尾を試みる際の声です。声が聞こえても、交尾が成功したとは限りません。
2014年、デイキンとモンゴメリーは、メスと交尾を試みていないときにもフートを出す行動を報告しました。研究で記録した432回のフートのうち、約31%がこの「単独のフート」でした。これは調査個体群での割合で、野生のインドクジャク全体にそのまま当てはめられる数字ではありません。
観察では、単独のフートのあとにメスがオスを訪れやすくなりました。さらに、録音した声を流す実験でもメスが引き寄せられ、声そのものに誘引効果があることが確かめられています。姿が見えなくても聞こえる声は、メスがオスの居場所を探す手がかりになるのです。[3]
「見せかけ」は、意図的なうそなのか
ここでいう見せかけとは、声から伝わり得る交尾の試みと、実際の状況が一致しないことです。人間のように相手をだます意図があると確認されたわけではありません。また、メスが近づくことと、そのオスを交尾相手に選ぶことも別です。研究者は、メスが訪れる経験を通じてこの行動が学習される可能性を提案していますが、学習の仕組みや配偶者選択への効果は、なお検証が必要です。[3]
毎秒約25回、飾り羽がつくる音と揺らめき
近くでの求愛では、羽も音を生み出します。扇のように広がる「トレイン」は、尾羽そのものではなく、尾の上を覆う上尾筒が長く伸びた飾り羽です。オスは尾羽と飾り羽を震わせる「トレイン・ラトリング」を行います。
デイキンらの2016年の研究では、その振動は平均25.6ヘルツ、つまり1秒に約26回でした。高速撮影では、周囲の細い羽枝が激しく動く一方、目玉模様の部分は比較的安定していました。電子顕微鏡で見ると、模様の部分では小羽枝が微細な鉤で結びついています。このまとまった構造と質量が、模様の動きを小さくする要因と考えられます。
声による合図に加え、羽の振動は機械的な音と、模様の周囲の揺らめきを同時につくります。ただし、この研究だけで「速く震わせるオスほど選ばれる」とは結論できません。確認された羽の仕組みと、メスの好みについての仮説は分けて捉える必要があります。[4]
インドクジャクの基本情報
| 和名・学名 | インドクジャク/Pavo cristatus |
|---|---|
| 分類 | 鳥綱・キジ目・キジ科 |
| 原産地・生息環境 | インド、スリランカなどの南アジア。水辺に近い開けた森林のほか、耕作地や寺院の周辺にも生息 |
| 食性 | 雑食。地上で果実、穀物、昆虫、小型の爬虫類などを食べる |
| 繁殖行動 | オスが小さななわばりを集めた求愛の場「レック」をつくり、訪れるメスにディスプレイする |
まとめ
インドクジャクの求愛では、声の特徴、声を出す状況、羽の動きがそれぞれ研究されています。フートを聞いてメスが訪れても、それだけで交尾が成立するわけではありません。声と行動の対応、そして羽のどこが揺れるのかに注目すると、華やかな姿の奥にある合図の仕組みが見えてきます。
参考資料
- Yasmin & Yahya(1996)Correlates of Mating Success in Indian Peafowl
- Yorzinski & Anoop(2013)Peacock copulation calls attract distant females
- Dakin & Montgomerie(2014)Deceptive Copulation Calls Attract Female Visitors to Peacock Leks
- Dakin et al.(2016)Biomechanics of the Peacock’s Display: How Feather Structure and Resonance Influence Multimodal Signaling
- Smithsonian’s National Zoo:Common peafowl

