コモドドラゴンが舌をチロチロと出すのは、獲物の手がかりとなる化学物質を集めるためです。二またの舌とヤコブソン器官の連携は、においの有無だけでなく方向を探るのにも役立つと考えられています。ただし、「左右差で方向を知る仕組み」と「コモドドラゴンが採餌でにおいを重視すること」は、異なる研究から得られた知見です。
二また舌からヤコブソン器官へ
まず、舌を出して空気中や地面の化学物質を採取します。口に戻すと、それらは口の天井側に開口する左右一対のヤコブソン器官(鋤鼻器)へ運ばれ、感覚の情報になります。舌は採取役、器官は検出役という分担です。
広げた二つの舌先なら、離れた二地点を同時に調べられます。左右の情報が別々に届けば、濃さの違いを進む方向の手がかりにできます。この同時比較による方向定位が「tropotaxis」です。「においをステレオで感じる」という表現は、その働きのたとえで、周囲の三次元地図が見えていると示されたわけではありません。においの跡の縁を捉え、跡から外れた側を修正する仕組みとして考えると分かりやすいでしょう。[1・2]
舌の形の研究と、幼体5頭の実験
Schwenkが1994年に『Science』で発表した「Why Snakes Have Forked Tongues」は、解剖・神経回路・行動などの証拠をまとめ、二また舌による化学的な跡の追跡という仮説を支持しました。ヘビやオオトカゲなど、深く分岐した舌を持つ群は追跡に優れ、切れ込みの浅い群では追跡が見られにくいという対応を挙げています。ただし、種間の能力を定量比較するデータは不足すると明記しており、「分岐が深いほど必ず高性能」と測定で確定した法則ではありません。[1]
コモドドラゴン自体を調べたのが、Chiszar、Krauss、Shipley、Trout、Smithによる2009年の『Zoo Biology』の研究です。デンバー動物園の孵化した幼体5頭を対象に、獲物由来の視覚・化学的手がかりへの反応を比較しました。一つの実験では舌を出す頻度、もう一つでは刺激に関わっていた時間を記録しています。[3]
研究者は、動く獲物を扱う幼体なら視覚への依存が大きいと予想しました。結果は逆で、動きを含む視覚情報にも有意な効果があったものの、化学情報の効果がはるかに強く現れました。これは採餌における化学受容の重要性を示す結果です。一方、左右の舌先への刺激を操作した実験ではないため、方向判断そのものの直接証明とは区別する必要があります。[3]
「細菌で殺す」「遠くまで分かる」の注意点
かつては、口内細菌が傷から入り、獲物を弱らせるという説明が広まりました。しかし、Goldsteinらの2013年の研究では、飼育個体16頭の口内細菌は食物や環境を反映し、急速な致死感染を起こすとは考えにくいとされました。細菌を狩りの武器として利用する説は、この後続研究では支持されていません。飼育個体の調査なので、野生で傷が感染する可能性まで否定した結果ではありません。[4]
一方、Fryらは2009年の『PNAS』で、MRIや解剖などにより下顎の毒腺を確認しました。分泌物の分析や実験から、血液凝固を妨げたり血圧を下げたりする作用を示し、歯による傷と合わせて出血やショックを助長すると提案しています。毒腺の存在と、野生の一回ごとの狩りで毒がどれほど寄与するかは別の問題で、「毒だけで必ず仕留める」とは言い切れません。[5]
においを察知できる距離にも注意が必要です。今回確認した一次研究では、野外での検出距離の上限を裏づけられませんでした。風やにおいの広がり方に左右される能力を、一定の距離まで届く探知機のようには扱えません。
基本情報と、生息地の変化
| 学名・分類 | Varanus komodoensis/オオトカゲ科 |
|---|---|
| 大きさ | 現生最大のトカゲ。大型個体は全長約3m、野生個体の体重は一般に約70kg[6] |
| 分布 | インドネシアのコモド島、リンチャ島、フローレス島など[6・8] |
| 保全区分 | IUCNが2021年にVulnerableからEndangeredへ格上げ[7] |
| 成熟個体数 | 2021年当時の推定は1,400頭未満。幼体を含む総数ではない[8] |
IUCNは2021年、気温と海面の上昇により、今後45年間で適した生息地が少なくとも3割減ると予測しました。低地の生息地の喪失に加え、フローレス島の保護区外では人間活動による生息地の減少も脅威です。当時、国立公園内の個体群は安定しているとされ、格上げは将来の危険も含めた評価です。[7・8]
まとめ
動画に映る短い舌の動きは、化学物質を採取する行動です。二またの形を方向判断に結びつける研究と、幼体が化学情報に強く反応した実験を分けて読むと、この動物の感覚について、分かったことと未検証の部分が見えてきます。
参考資料
[1]Schwenk(1994):二また舌の機能
[2]コネチカット大学:Schwenkによる解説
[3]Chiszarら(2009):幼体の視覚・化学手がかり実験
[4]Goldsteinら(2013):飼育個体の口内細菌
[5]Fryら(2009):毒腺と捕食
[6]Smithsonian’s National Zoo:基本情報
[7]IUCN(2021):レッドリスト更新発表
[8]ロンドン自然史博物館(2021):個体数と生息地の脅威

