葉がほとんど見えないサボテンは、どこで光合成をしているのでしょう。多くの種類では、緑の茎が光合成と貯水を担い、夜に二酸化炭素を取りこむCAMという仕組みが水の損失を抑えます。動画で紹介したこのつながりを、トゲの成り立ちや野外研究からもう一歩たどります。
葉とトゲ、光合成する茎の関係
トゲは一般に「葉が変化したもの」と説明されます。付け根の綿毛状の小さな部分はアレオーレ(刺座)。枝が高度に変化した短い構造で、トゲだけでなく花や新しい枝も生じる、サボテン科を特徴づける器官です。刺座と、そこから出るトゲは区別して考えます。[1][2]
サボテンの祖先は葉を持っていたと考えられ、ペレスキア属(Pereskia)は今も平たい葉を広げます。現在のペレスキアが他のサボテンの直接の祖先という意味ではありません。葉を持つ種類にもトゲがあり、「平たい葉が順番に細くなり、そのあと茎が太った」とだけ説明すると単純化しすぎです。
2005年のDNAに基づく系統研究は、茎に気孔ができ、樹皮の形成が遅くなる変化が、茎内部の光合成組織の特殊化より先だったと推定しました。葉の縮小、茎の多肉化、光合成の移行は、複数の形質が段階的に組み合わさった進化として捉えられます。多くのサボテンでは、葉に代わってクロロフィルを持つ茎が光を受けます。[3]
茎は、伸び縮みする貯水タンク
サグアロの太い茎には水を蓄える組織があり、表面の縦のひだは吸水に合わせてアコーディオンのように開きます。乾燥して蓄えを使うと、ひだは縮みます。単なる模様ではなく、水の増減に伴う体積変化を受け止める形なのです。浅く広がる根は大雨の水を吸い、十分に水を蓄えた株はとても重くなります。貯水量や重量は株の大きさや状態で違うため、一律の数字では表せません。[4][5]
夜に材料を集め、昼に光を使うCAM
光合成には二酸化炭素が必要ですが、気孔を開くと水蒸気も逃げます。多くのサボテンが行うCAM(ベンケイソウ型有機酸代謝)では、比較的涼しい夜に気孔を開き、二酸化炭素をリンゴ酸などの有機酸として細胞内に蓄えます。昼は基本的に気孔を閉じ、酸から取り出した二酸化炭素と光のエネルギーを使って糖を作ります。[1]
水利用効率は、取りこんだ二酸化炭素に対して失う水の少なさを表す指標です。Nobelの研究では、同程度の環境条件でCAM植物はC3・C4植物より高い効率を示すと整理されており、陸上植物でも最高水準の節水方式といえます。ただし、どんな条件でも同じ効率になるわけではありません。[6]
研究で分かったこと、まだ議論があること
2024年の『Plants』論文は、発芽直後のサグアロを詳しく追い、器官のもとになる原基に明確な葉の特徴を確認できなかったと報告しました。著者らは、トゲを短い枝の変化と捉える可能性も再検討しています。しかし、これは「トゲは葉ではない」と証明した結果ではありません。一般的な葉由来説に対し、発生過程や遺伝子の働きからさらに検証する課題を示した研究です。[7]
2011年のBronsonらは、野生のサグアロで二酸化炭素の取りこみや蒸散を2年間測定し、水利用効率が季節や空気の乾き方で変わることを示しました。サグアロはCAMを基本とする「絶対CAM植物」です。CAMと昼間のC3型の取りこみの配分が変わるという説明もありますが、2019年の総説は、これらの野外測定で昼間の取りこみを伴う四相型CAMは確認されなかったと整理しています。水条件による変動と、C3への切り替えの実証は別の話です。[8][9]
「水いらず」「砂漠だけ」は誤解
サボテンは水なしで生きるのではなく、蓄えた水を少しずつ使います。長い高温と雨不足ではサグアロも脱水します。また、熱帯林には木の上で育つ着生種もおり、シャコバサボテンはその一例です。身近な鉢植えをすべて砂漠の植物と考えるのは適切ではありません。[12][11]
サボテン科の基本情報
| 分類 | ナデシコ目サボテン科(Cactaceae) |
|---|---|
| 種数 | 資料・分類の扱いで異なり、キューの解説には約1,500種、1,800種超という記載がある |
| 自然分布 | ほぼ南北アメリカ。例外のRhipsalis bacciferaはアフリカ、マダガスカル、スリランカなどにも自然分布 |
| 暮らす環境 | 乾燥地を中心に、熱帯林の着生種も含む |
分類・種数・分布:キュー王立植物園[10]。
まとめ
サボテンの乾燥への強さは、茎で光合成し、水を蓄え、気孔を開く時間を調節する仕組みの組み合わせにあります。トゲの付け根や茎のひだにも、その体の成り立ちを読み解く手がかりが見えます。
参考資料
本文中の番号から各資料へ移動できます。[1]ASU「CAM Plants」、[2]カリフォルニア大学「What Are Cacti」、[3]Edwardsら(2005)、[4]米国国立公園局「Saguaros」、[5]Desert Botanical Gardenのサグアロ解説、[6]Nobel(1996)、[7]Miravel-Gabrielら(2024)、[8]Bronsonら(2011)、[9]Hultineら(2019)、[10]キュー「Cactaceae」、[11]ノースカロライナ州立大学「Schlumbergera truncata」、[12]Desert Botanical Gardenの干ばつ解説。

