![]()
タコの体には、全身へ血液を送る心臓が1つ、左右のえらへ血液を送る「えら心臓」が2つあります。さらに、青く見える血液、骨のない柔軟な腕、吸盤に備わった触覚と化学感覚、腕の内部まで広がる大規模な神経系を持ちます。ただし、よく聞く「腕がそれぞれ独立した脳を持つ」という表現は正確ではありません。中央の脳と腕の神経回路が情報を分担し、協調して動く体だと捉えるのが適切です。
3つの心臓と青い血はどう働く?
タコの循環器は閉鎖血管系で、血液は主に血管の中を流れます。2つのえら心臓が酸素の少ない血液をそれぞれのえらへ送り、そこで酸素を受け取った血液を、中央の体心臓(全身心臓)が各器官へ送り出します。3つの心臓が同じ仕事をしているのではなく、えら側と全身側で役割が分かれているのです。
酸素を運ぶのは、鉄を含む赤いヘモグロビンではなく、銅を含むヘモシアニンです。酸素と結合したヘモシアニンは青く見えるため、タコの血は青色になります。ヘモシアニンの働きは水温やpHなどの影響を受けます。「青い血だから、どんな低酸素環境でも平気」と単純化することはできません。
骨のない腕を動かす仕組み
タコの腕には骨や関節がありません。筋肉が縦・横・斜め方向に組み合わさった「筋肉性ハイドロスタット」と呼ばれる構造で、体積を大きく変えずに、伸ばす、曲げる、ねじる、硬くするという動作を生み出します。関節の位置が決まっていないため自由度は非常に高い一方、すべての筋肉を中央脳だけで逐一制御するのは複雑です。
そこで重要になるのが、各腕を走る腕神経索と吸盤周辺の神経回路です。研究レビューでは、タコの神経細胞の大部分が腕側にあると整理されています。腕は局所的な感覚情報を処理して運動を組み立てられますが、中央脳から切り離された8つの意思決定者ではありません。中央脳、視葉、腕の神経系が連絡しながら、進行方向や獲物への接近、細かな把持を分担します。
吸盤は「触る」と「味わう」を同時に行う
2020年に『Cell』で発表された研究は、カリフォルニアツースポットダコの吸盤に、接触した物質を検出する化学触覚受容体があることを示しました。実験では、受容体を発現させた細胞や腕の神経活動を調べ、獲物などに由来する水に溶けにくい分子への応答を確認しています。つまり、タコは海底や岩の隙間を吸盤で探り、形や硬さだけでなく、接触面の化学的な手掛かりも得られます。
ただし、人間の舌と同じ意味で「腕が味を考える」わけではありません。吸盤が感覚器として情報を受け取り、腕の局所回路と中央の神経系がその情報を行動へ結び付ける、という理解が研究結果に近い説明です。
ココナツ殻を運ぶ行動は何を示した?
2009年の野外研究では、メジロダコが海底に落ちたココナツ殻を掘り出して清掃し、体の下に抱えて運び、必要な場所で組み合わせて隠れ家にする様子が記録されました。運搬中は動きにくくなり、その場では殻の利益を得られません。それでも将来使うために持ち運ぶ点から、研究者はこの行動を防御のための道具使用と評価しました。
一方、貝殻や石を巣の周囲へ集める行動すべてを、計画的な道具使用と呼べるわけではありません。野外で観察された行動の順序と、殻が持ち運び可能な防具として後から使われたことが、この研究の重要なポイントです。
タコの基本情報
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 分類 | 軟体動物門・頭足綱・八腕形上目 |
| 心臓 | 全身へ送る体心臓1つ、えらへ送るえら心臓2つ |
| 酸素運搬色素 | 銅を含むヘモシアニン |
| 腕 | 8本。骨を持たず、筋肉性ハイドロスタットで変形する |
| 感覚 | 発達した視覚に加え、吸盤で機械的・化学的刺激を検出する |
| 寿命 | 種による差が大きく、1~2年程度の種から数年以上生きる種までいる |
まとめ
タコの驚異は、3つの心臓や青い血という特徴の数だけではありません。えらと全身で分担する循環、骨なしでも多様な動きを作る筋肉、接触と化学感覚を組み合わせる吸盤、中央と腕に広がる神経系が一体となって働くことにあります。「9つの脳」といった比喩だけで済ませず、体全体に処理を分散させた独特の仕組みに注目すると、タコの行動の巧みさがより具体的に見えてきます。

