「清流の宝石」と呼ばれるカワセミは、全長約17センチメートルの小鳥です。狩りを支えるのは、水面で曲がる光を扱う目、飛び込みに適した体形、環境を選ぶ行動の組み合わせです。その姿は、抵抗が急変する問題を解く手がかりとして500系新幹線の先頭形状にも結びつきました。
空中から水中へ――狩りを支える仕組み
カワセミは水上の枝などから魚を狙い、急降下して浅い水中へ入ります。水面で光が屈折するため、見える魚と実際の位置にはずれが生じます。カワセミ科5種の目を調べた研究では、片目に二つの中心窩があり、正面側の中心窩がくちばしの方向とそろう構造が報告されました。周囲を探す見方から獲物へ照準を合わせる見方への切り替えに役立つと考えられますが、この研究だけですべての水中視を説明はできません。
飛び込む直前には透明な第三のまぶた「瞬膜」が眼球を覆い、衝撃や異物から守りつつ視界を残します。「瞬膜が水中でピントを合わせる」とも説明されますが、潜水鳥の比較研究では屈折補正が主機能とは限らないとされています。保護する膜と、網膜・水晶体による視覚は分けて考えるのが妥当です。
2019年にカワセミ類71種を比較した研究では、水へ飛び込む種ほど、体格を補正してもくちばしが長く細い傾向が示されました。模型実験と流体解析も、細い形が水への突入時の抗力を抑えることを支持します。ただし、カワセミ1種のくちばしが新幹線と同じ流体特性を持つと証明した研究ではありません。
「狩りの成功率80%」は固定値ではない
動画で紹介した約80%は、特定の個体群・条件での報告です。飼育下の2013年の実験では、深い水より浅い水で攻撃回数と成功率が高く、浅い条件では経験のある個体ほど成績がよい傾向がありました。魚が群れると攻撃は増えましたが、1回ごとの成功率は変わりませんでした。水深、光、獲物の動きなどで変わるため、「どの個体も5回に4回成功する」という意味ではありません。
カワセミから500系へ:形をまねるより、問題を読み替えた
元JR西日本の仲津英治氏による日本機械学会の講演資料では、山陽新幹線は線路の51%がトンネルで、高速列車が狭いトンネルへ入ると圧力波が生じ、出口側で「トンネル微気圧波」を起こすことが課題でした。仲津氏は、抵抗の小さい空気から大きい水へ入るカワセミを連想しました。自身が日本野鳥の会の会員だったことも、この着想の背景にあります。
ただし、設計は写真からくちばしを写しただけではありません。鉄道総研の大型実験などから、車体断面を円形に近づけ、先頭部の断面積が一定の割合で増える形にすると圧力波を緩和できると分かりました。その工学的な最適形が、くちばしから頭へ滑らかに太くなるカワセミに近かったのです。仲津氏の資料では、500系はトンネル微気圧波を抑えて時速300キロメートル営業運転を実現し、円形断面による空気抵抗低減などで300系より消費電力が13%少なかったとされています。カワセミは「完成図」ではなく、異なる媒体へ滑らかに入るという問題設定のヒントだった、と捉えると正確です。
青い羽と繁殖から見える、もう一つの素顔
背の青は青色の色素を塗った色ではありません。電子顕微鏡などを用いた研究では、羽枝にあるスポンジ状のケラチン微細構造が特定の波長の光を強く散乱し、青からシアンに見せることが示されました。腹のオレンジは小さな色素顆粒による色で、同じ一羽の中に異なる発色法があります。
皇居で12年間、足環で個体を識別した観察では、同じつがいが同じ巣穴で年3回繁殖した例や、少なくとも2年間つがいが続いた例が確認されました。皇居生まれの個体が24キロメートル先で見つかった記録は、都市の水辺が孤立していないことも示します。
基本情報
| 和名・学名 | カワセミ・Alcedo atthis |
|---|---|
| 分類 | ブッポウソウ目カワセミ科 |
| 全長 | 約17センチメートル |
| 主な食物 | 小魚、エビ・ザリガニ、水生昆虫、オタマジャクシなど |
| 繁殖 | 土の崖に直線状の巣穴を掘る。通常5~7卵、雌雄で約20日抱卵し、ふ化後およそ23~28日で巣立つ |
| 雌雄の目安 | 成鳥のオスはくちばしがほぼ黒く、メスは下くちばしの基部側が橙赤色 |
| 生息環境 | 河川だけでなく、池、湖沼、水路、汽水域などでも見られる |
まとめ
カワセミの飛び込みは、細長いくちばし、獲物へ向ける視覚、瞬膜による保護、環境を選ぶ行動の総合技です。500系新幹線もまた、鳥の外形を単純にコピーしたのではなく、「抵抗が急に大きくなる境界へどう入るか」という自然界の問いを、実験と計算で鉄道の形へ置き換えました。羽の発色や都市での繁殖まで見ると、この鳥の魅力は鮮やかな一瞬のダイブだけではないことが分かります。
参考資料
- 仲津英治(2018)「自然に学ぶ高速鉄道技術の粋、世界最速500系新幹線の開発秘話」日本機械学会年次大会
- Crandell et al.(2019)“Repeated evolution of drag reduction at the air–water interface in diving kingfishers”
- Vilches et al.(2013)“An experimental evaluation of the influence of water depth and bottom color on the Common kingfisher’s foraging performance”
- Moroney & Pettigrew(1987)“Some observations on the visual optics of kingfishers”
- Stavenga et al.(2011)“Kingfisher feathers—colouration by pigments, spongy nanostructures and thin films”
- Collin & Collin(2020)“The Ultrastructure of the Nictitating Membrane of the Little Penguin”
- British Trust for Ornithology「Kingfisher」
- 山階鳥類研究所「皇居におけるカワセミの長期個体識別研究の紹介」
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