ウミガメの子ガメは、生まれた砂浜から旅立ってから成体になるまで生き残れる確率がおよそ0.02〜0.3%、数千匹に1匹ほどしかないとされています。それでも生き残った個体は、地磁気を目印にして自分が生まれた海域へ戻り、そこで産卵するという壮大な行動をとります。この記事では、動画では触れなかった研究の詳細や、気候変動との関わりを紹介します。
しくみ: 地磁気を「覚えて」戻る
ウミガメは地磁気の傾斜角と強度という2つの要素から位置情報を得ていると考えられています。地球上の場所によってこの2つの値の組み合わせが異なるため、海には目に見えない「地磁気の指紋」が広がっていることになります。孵化した子ガメが生まれた場所の地磁気を記憶し(インプリンティング)、成長後にその記憶を目印として同じ場所へ戻ってくるという考え方が「地磁気インプリンティング仮説」です。
研究で分かってきたこと
この仮説を支持する代表的な研究が、2015年にCurrent Biology誌に発表された、北米最大級のアカウミガメ産卵地(フロリダ)を対象にした19年間のデータ分析です。研究チームは、産卵地点の分布と地球磁場の緩やかな経年変化(secular variation)の関係を調べ、隣接する海岸の地磁気の特徴が近づいた年ほど産卵が集中し、離れた年ほど産卵が分散する傾向を確認しました。これは、メスが自分の記憶している地磁気の特徴を探して産卵場所を選んでいることを示す強い状況証拠とされていますが、子ガメがどのように地磁気を記憶するのかという細かいメカニズム自体は、まだ研究が続いている段階です。
一方、気候変動との関わりで注目されているのが、卵の性別を決める砂の温度です。オーストラリア・グレートバリアリーフのアオウミガメを調べた2018年のCurrent Biology誌の研究では、若い個体(幼体・亜成体)の性別がすでに9割以上メスに偏っていることが報告されました。産卵地の砂の温度がおよそ29℃を境に、それより高いとメス、低いとオスになりやすいという仕組みが背景にあります。東京農工大学の研究グループは、成体のアオウミガメが暖かい年には産卵の時期を早めたり、日陰になる場所を選んで産卵したりする行動を確認し、これが年ごとの性比の偏りを小さくする適応行動になり得ると報告していますが、温暖化が進んだ場合にこの適応だけで性比のバランスを維持できるかどうかは、まだ分かっていません。
よくある誤解
- ウミガメとリクガメは同じ? ウミガメは一生のほとんどを海で過ごし、上陸するのは主にメスが産卵するときだけです。陸上で暮らすリクガメとは生態が大きく異なります。
- 温度が高い年は必ずメスが増える? 一般的な傾向としては正しいですが、上記の東京農工大学の研究のように、産卵行動そのものを変えることで影響を弱めている例も観察されています。
- 帰巣本能は「証明された事実」? 産卵地点の分布データという強い状況証拠はありますが、地磁気を記憶する仕組み自体は仮説の段階であり、今も研究が続いています。
ウミガメの基本情報
| 分類 | 爬虫類。現生種はウミガメ科6種、オサガメ科1種の合計7種 |
|---|---|
| 生息地 | 世界の熱帯・亜熱帯・温帯の海洋、外洋を回遊 |
| 産卵数 | 1回に100〜130個ほど(メスが上陸して砂浜に産卵) |
| 孵化後の生存率 | 成体まで生き残れるのはおよそ0.02〜0.3% |
| 性決定の仕組み | 温度依存性決定(砂の温度が高いとメス、低いとオスになりやすい) |
| 寿命 | 飼育記録ではアカウミガメが70〜80年以上。自然界の実際の寿命は不明 |
| 保全状況 | 複数種がIUCNレッドリストの絶滅危惧種、ワシントン条約附属書Iに掲載 |
まとめ
ウミガメの帰巣本能は、地磁気という目に見えない情報を目印にした壮大な行動だと考えられていますが、そのすべてが解明されているわけではありません。また、気候変動による砂の温度上昇は性比に直接影響する一方、産卵行動を変えることで影響を和らげている例も報告されており、今後の変化を注視する必要があります。
参考資料
- Brothers & Lohmann (2015), “Evidence for Geomagnetic Imprinting and Magnetic Navigation in the Natal Homing of Sea Turtles” (Current Biology)
- WIRED.jp「地球温暖化の影響で、アオウミガメは『ほぼすべてメス』になる:研究結果」(2018)
- 東京農工大学 科学研究費助成事業研究成果報告書(KAKENHI-PROJECT-20K20007)

