触れると数秒で葉を閉じ、葉柄まで垂らすオジギソウ。この動きを生み出すのは、葉の付け根にある「葉枕(ようちん)」という組織です。接触や傷によって生じた電気信号とカルシウム濃度の変化が葉枕へ伝わると、細胞から水が移動して膨圧が下がり、葉が動きます。
この高速運動には、葉を食べる昆虫から身を守る効果があることが実験で示されています。2022年、埼玉大学と基礎生物学研究所の研究チームによる研究では、葉を動かせないオジギソウは、通常のオジギソウより昆虫に多く食べられることが確認されました。ただし、昼間に触れたときの高速運動と、夜になると自然に葉を閉じる就眠運動は、引き金も仕組みの位置づけも同じではありません。この記事では、それぞれの流れと違いを順に解説します。
オジギソウが葉を閉じるまでの流れ
- 葉が接触・振動・傷などの刺激を受ける
- 刺激を受けた部位でカルシウム濃度の変化と電気的な信号が発生する
- 信号が葉脈などを通って葉の付け根の「葉枕」へ伝わる
- 葉枕の運動細胞でイオンと水が移動し、膨圧が下がる
- 小葉が閉じ、葉柄が垂れる
- 時間をかけて膨圧が回復し、葉が開く
埼玉大学・豊田正嗣教授らのチームは、カルシウム濃度の変化を光る色素(バイオセンサー)で可視化する手法で、この信号が葉の中をどう伝わるかを撮影しました。葉をハサミで傷つける実験では、カルシウム信号が葉枕に到達してから、わずか0.1秒後に葉の運動が観察されています。
食害を防ぐ効果を確かめた実験
オジギソウの高速な葉の動きは、長らく「刺激への反応」として知られてきましたが、それが植物にとってどんな役に立っているのかは、はっきり分かっていませんでした。
研究チームはゲノム編集技術(CRISPR/Cas9)を使い、葉枕を欠損させて葉を動かせない「おじぎをしない」オジギソウを作成しました。動く葉と動かない葉を隣り合わせに並べてバッタに食べさせたところ、バッタは動かない葉の方をより多く食べることが分かりました。
この研究で直接示されたのは、葉の運動によって昆虫の摂食が妨げられ、食害が軽減されることです。長らく唱えられてきた「昆虫を驚かせる」といった仮説も含め、この防御運動の役割にはまだ研究が続いている部分がある点には注意が必要です。
接触時の運動と夜の就眠運動の違い
| 比較項目 | 接触時の高速運動 | 夜の就眠運動 |
|---|---|---|
| 引き金 | 接触・振動・傷など | 明暗の周期、体内時計 |
| 起こる速さ | 傷刺激の実験では信号到達後0.1秒 | 時間をかけて変化 |
| 特徴 | 一時的な刺激への反応 | 毎日繰り返す周期的な運動 |
| 共通点 | 葉枕の膨圧変化を利用 | 葉枕の膨圧変化を利用 |
就眠運動は、触れられなくても一定の周期で起こる点が接触時の運動と異なります。マメ科やカタバミ科の植物に共通して見られる現象で、光環境や体内時計に調節されていますが、それが植物にとってどんな利益になっているのかについては複数の説があり、オジギソウについてすべてが確定しているわけではありません。
何分で元に戻る?何度も触れて大丈夫?
閉じた葉が開き始めるまでには数分から十数分、葉柄を含めた回復にはさらに時間がかかることがあります。温度や光、植物の状態によって変わります。
数回触れただけで枯れるものではありませんが、繰り返し葉を閉じさせると光合成できる時間が減るため、必要以上に刺激を与え続けるのは避けるとよいでしょう。
「ミモザ」は実は別の植物?
オジギソウの学名Mimosa pudicaの種小名「pudica」は、ラテン語で「内気な」「恥ずかしがる」という意味です。この属名「Mimosa」が由来となり、日本語でも「ミモザ」という呼び名が使われてきました。
しかし実は、日本語で「ミモザ」と呼ばれている黄色い花木の多くは、オジギソウとは別の植物(Acacia dealbata、和名ギンヨウアカシアなど)です。本来「ミモザ」はオジギソウが属するMimosa属に由来する名称ですが、日本ではアカシア類を指す呼び方として定着しており、植物としては別種を指しているのが実情です。オジギソウ自体を画像で探すときも、検索結果に黄色いアカシアの花や「ミモザカクテル」(シャンパンとオレンジジュースの飲み物)が混ざりやすいのは、この名前の重なりが理由です。
基本情報
| 和名 | オジギソウ(お辞儀草・含羞草) |
| 学名 | Mimosa pudica |
| 別名 | ネムリグサ(眠り草)、英名sensitive plant / touch-me-not |
| 分類 | マメ科オジギソウ属 |
| 原産地 | 南アメリカ(現在は世界の熱帯・亜熱帯に帰化) |
| 日本への伝来 | 江戸時代に伝わったとされる |
まとめ
- 傷刺激を用いた実験では、カルシウム信号が葉枕に届いてから0.1秒後に葉の運動が観察された
- 2022年の研究で、この運動が昆虫の食害を軽減する効果を持つことが確かめられた
- 昼間の接触反応と夜の就眠運動は、仕組み(葉枕の膨圧変化)は共通するが、引き金や性質は異なる
- 「ミモザ」は日本語では別の植物(アカシア類)を指すことが多く、名前の由来と実際の使われ方にずれがある
参考資料
- オジギソウは、どのようにして、何のために葉を動かすのか?|埼玉大学 研究トピックス(カルシウム・電気信号、0.1秒の運動、食害実験の一次資料)
- Hagihara, T., Mano, H., Miura, T., Hasebe, M., Toyota, M. (2022). Calcium-mediated rapid movements defend against herbivorous insects in Mimosa pudica. Nature Communications 13, 6412. 論文
- オジギソウ – Wikipedia(名称・伝来の補助的な確認先)
- オジギソウ Mimosa pudica|三河の植物観察
- オジギソウとは|みんなの趣味の園芸(NHK出版)

